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コラム旅行用心集

旅行用心集

題材としたのは、江戸時代の八隅蘆庵が文化7(1810)年に表した『旅行用心集』である。彼が述べている旅の心得は、現代から考えた場合「なるほど」と思ったり「そうかな?」と考えたりいろいろである。しかし、約200年前の江戸時代の人々がどんな思いで旅をしていたのかが判る興味深い書物である。コラムを読んで江戸時代の旅と現在の旅の感覚を較べていただきたい。
また、旅行用心集の序文を掲載しておいた。これを読めば八隅蘆庵の旅へ見識を知ることができる。

自序

人は仕事の合間に伊勢参宮に出けるため仲間を集めたり出発日に決めたりと準備をする。餞別の品が届いて家中が旅の支度にわくわくしている様子はすがすがしいものである。特に旅立ちの日は親類や友人が町はずれまで見送り、酒を酌み交わしながら、道中についてそれぞれが心からアドバイスしている様子は、傍目にもうらやましいものである。また、仕事であちこち出かけるのも旅でも、年齢にかかわらず、わくわくするものである。

東国の人は伊勢から大和、京、大坂、四国、九州の名所や旧跡、神社、仏閣を見たいと思い、西国の人は伊勢から江戸、鹿島、香取、日光、松島、象潟、善光寺などを見たいと思うものである。 家族が健康で家業も順調な家庭では一生に一度は伊勢参りに出かけるという。我が国のありがたい習慣ではないだろうか。毎日の仕事に専念していれば決して貧しい思いをせず、生涯を安穏に過ごせるというのも神仏の教えを守っているおかげである。金持ちでも病弱であったりすると、旅に出かけて珍しい景色を見たり霊場を廻ったりすることはできない。お金があれば駕籠で旅をすることができる。しかし貧しくとも健康な体で旅をする者が味わう楽しさにはとても及ばない。さぞ残念なことであろう。貧富に関わりなく健康で旅行が出来るということはこの上なく幸いなことである。

さて、旅に出る人は次のことを心得てほしい。 たとえ家来を連れて行くとしても、股引や草履を履くなどのことは自分ですること。 食事に不満があっても文句を言わずに食べること。 すべて自分の修行の機会だと思うこと。土地によっては習慣の違いなどから気にくわない扱いを受けることがあっても、心得ておくこと。旅行中は、風雨にあう、濃霧に山越えをする、布団が薄い、仲間割れが起きる、怪我人が出て行程が遅れる、気候の変化で持病が出るなど、思わぬトラブルに見舞われるものである。旅先では家に居るときのように適切に対処することがむずかしいものである。

このように長い旅は言い表せないほどの苦労があるが若者にとってはよい人生修行である。「可愛い子には旅をさせ」という諺もある。旅の経験のない人は旅の苦労を知らず、旅はひたすら楽しく物見遊山のためだけにするものだと思っている。そのため人情に疎く自分勝手な人間になってしまう。きっと陰で後ろ指を指されて笑われていることも多いだろう。

大名や公家でも、川留めにでもならない限りどんな悪天候でも予定を変えることはない。まして、一般の旅人にわがままが許されるはずがない。このように様々な苦労に耐えることで人情に厚く、思いやりの心を持つようになる。そうすれば人から良い人だとよばれ立身出世、ひいては子孫の繁栄に繋がっていくことは間違いない。「可愛い子には旅をさせ」とはまさにこのことである。

私は若いときから旅行が好きであちこちの国に行った。それを知っている知人が旅行に出かける際にいろいろ聞いてくる。これまではそのたびに書いて渡していたが、最近は歳をとって面倒になった。断るわけにもいかないので、これまでのものを集めたり新たに書き起こしたりして、旅の助けになるようなことを小冊子にまとめることにした。人の役に立つように印刷して『旅行用心集』と名付けるようになった次第である。

文化庚午(7年)6月
八隅蘆庵

旅行用心集

八隅蘆庵が著した旅の心得。旅の携行品、温泉でのふるまい、船酔いへの対処など、旅の道中で注意すべき事柄を記す。文化7年(1810)に刊行され、庶民に広く読まれた。

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