むかし、播磨灘(はりまなだ)にうかぶ家島(いえしま)の大神と、志方(しかた)にある高御位山(たかみくらやま)の神様が、けんかになりました。けんかの原因は、家島と高砂(たかさご)の間にうかんでいる、かみ島という小さな島です。

「かみ島は、家島のものだ」
「いいや、かみ島は志方村のものだ」

高御位山のふもとに住んでいる阿弥陀様(あみださま)は、「神様どうしのけんかだよ。仏の私が出ることもなかろう」と、しらんふりをしていましたが、二人の神様のけんかは、いつまでたってもおさまる気配がありません。とうとうしびれをきらした阿弥陀様は、神様たちの仲立ちをすることにしました。

かみ島には、一人の女神が住んでおりましたから、阿弥陀様はまず、この女神に会いにゆくことにしました。女神に会って、どちらの神様が好きかとたずねると、女神は家島の大神の方が好きだといいます。

そこで阿弥陀様は、高御位山の神様の所へ行って、こういうことだからとわけを話し、かみ島を家島の大神にゆずるように言いました。
ところが、高御位山の神様は納得できません。夜のうちにこっそりかみ島をつなでしばると、力いっぱい引っ張りはじめたのです。これを見ていた家島の大神はびっくりしました。
「これではかみ島を取られてしまうぞ」

そこで大神は、家島一の力持ちであった孫兵ヱ(まごべえ)に大きないかりを持たせて、かみ島を引きとめるように言いました。孫兵ヱがかみ島についてみると、島の根っこがはずれて、かみ島はじわじわと高御位山の方へ引きよせられています。
「これはいかん」
孫兵ヱは、大いかりのつなを、かみ島にぐるぐると巻き付けると、いかりを海の中へ投げこみました。すると、動いていた島が、ぱったりと動かなくなったのです。

高御位山の神様は、急に島が動かなくなったので、いっそう力をこめてつなを引っ張りました。うんうんと力いっぱい引っ張ましたが、かみ島はびくともしません。そこで、足をふんばって体中の力をこめたとたん、つなはとちゅうでぷつりと切れてしまいました。高御位山の神様は勢いあまってひっくり返り、ごろごろと雷(かみなり)のような音をたてながら、山のてっぺんから落っこちてしまいました。

今も、かみ島の南側にある、大いかりとよばれる難所は、こんなわけでできたのだということです。