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公家物鉢かづき

 河内国(かわちのくに)の交野(かたの 今の大阪府)のあたりでした。わたしは、備中守(びっちゅうのかみ)実高(さねたか)とその妻の娘として、音楽や物語に心よせながら、不自由のない暮らしをおくっておりました。数えで十三歳になったある年のこと、母上が病にかかりました。母上は、わたしの頭の上に大きな鉢かづけて、長谷寺の観音さまに祈ると、そのまま亡くなってしまいました。
 それからというもの、鉢は頭からはなれず、継母(ままはは)と父とによって家から追い出されてしまいました。
わたしは母上のみもとに逝(い)こうと、河に身を投げました。ところが鉢がまるで浮き輪となって助かり、漁師によって川岸にひきあげられました。
しかし頭は鉢、体は人というこの姿……。わたしは、出会った人に笑われたり怖がられたりしながら、足のおもむくまま浦々(うらうら)をさすらいました。
 そのうちに河内国の国司(こくし)である山蔭三位中将(やまかげのさんみのちゅうじょう)「湯殿(ゆどの)の湯沸かし」として雇われました。
その家のお風呂に入る人々のため一生懸命に働くうち、どういう訳でしょうか、鉢からでている口元や手足が美しいのをみて、宰相殿(さいしょうどの)という三位中将の末っ子が恋に落ちました。
わたしたちは密かに結婚しましたが、ご両親は宰相殿の未来を案じて、「嫁合(よめあわせ)」という息子の嫁たちを競い合わせるコンテストを開きました。
 こんな姿や身なりから、「嫁合」で恥をかくことは目に見えています。みかねた宰相殿は駆け落ちを決意しました。そのときわたしの頭から鉢がはずれ、美しい素顔が明らかになりました。鉢の中からは金銀財宝や豪華な着物が現れました。
わたしは急いで「嫁合」に参加しました。その美しく教養にあふれた姿は、舅(しゅうと)さま・姑(しゅうとめ)さまの心を動かしました。宰相殿との結婚は晴れて認められ、わたしたちはいつまでも幸せに暮らしました。

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