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鉢かづきはちかづき
鉢かづき
- 御伽草子 はちかづき
(おとぎぞうし はちかづき) - 江戸時代 延宝4年(1676)刊 2冊 絵入版本 袋綴装 楮紙
縦24.9㎝×横16.6㎝(匡郭:縦21.8㎝×横15.8㎝) 上10.5丁・下10丁 1面14行
挿絵全5図(上:見開き1図・片面2図、下:見開き1図・片面1図) 刊記「延宝四丙辰年霜月吉日」
頭に大きな鉢を被せられた河内国(今の大阪府)の長者の娘は、継母にいじめられて家出をします。のちに下働きしていた家の御曹子に見初められ、鉢が外れると才能あふれた美しい姫となって登場し、嫁くらべに勝利するのです。この本は江戸時代の延宝4年(1676)に刊行されたものですが、同年の作成本が当館所蔵本以外にも幾つか残されています。
「御伽草子 はちかづき」(2冊)は、延宝4年(1676)に刊行された絵入の大本(※B5サイズ程度の和本)です。表紙を丹表紙(たんびょうし)で装幀しており、主文様には牡丹文(ぼたんもん)、地文様に卍字繋文(まんじつなぎもん)が刷りだされています。こうした丹表紙は、寛永(1624~1645)前後頃の版本に用いられる傾向が指摘されており、この館蔵本は刊記のとおり延宝四年の発行とみなしてさしつかえないでしょう。
題箋は、もともと左肩に貼りつけられていたようですが、現在では失われています。内題には、「はちかづき上(下)」とあり、柱刻(版心)には「はちかつき 上(下)(丁数)」と刻まれています。入江コレクションのうちの1点として、近年当館に寄贈されました。
『鉢かづき』のテクストは、室町時代に成立した素朴な本文の系統〈Ⅰ類〉をもとに、増幅・増補するかたちで新たな系統〈Ⅱ類〉の本文が生まれ、江戸時代の古活字本・版本による流布本〈Ⅱ類〉へと展開したと考えられています。延宝四年絵入本は、こうした流布本の流れのなかに位置づけられる伝本です。とくに万治2年(1659)に江戸で刊行された松會開板「はちかづき」(2冊、筑波大学附属図書館所蔵)と、挿絵・本文ともに同版かと目されるほど類似しています。これら松會開板と延宝四年絵入本『鉢かづき』では、先行する諸本の不備を正そうとする意図をもって改訂されたものと考えられます。
たとえば松會開板と延宝四年絵入本では、それまでの写本や版本の挿絵とは場面選択から異なります。
ところでこの延宝四年絵入本については、後印(後刷)が西尾市岩瀬文庫や早稲田大学図書館などにも所蔵されていることが、各機関の公開データベースから確かめられます。とくに早稲田大学図書館のものは、下巻の裏表紙裏に「津逮堂蔵版/京都市三条通御幸町角/吉野屋 大谷仁兵衛」とあり、明治期に京都で再版されたものであることがわかります。つまり延宝四年に開版されてから、およそ200年という長い時間、上方で親しまれた版だったと言うことができましょう。さらに早稲田大学図書館には、その版木自体が5枚までも残されており貴重です。テクストと絵・装幀をあわせた総合的な研究の進展が、今後期待されています。