兵庫県立歴史博物館学芸員の吉原大志(よしはら・だいし)です。日本の近現代史を専攻しています。歴史研究室については、たたら研究班の研究員として参加しております。今回のリレートークでは、たたら研究班の研究活動と、博物館展示を通じた成果発信について記したいと思います。

令和2年(2020)3月、『ひょうご歴史研究室紀要』の別冊として、『近世播磨のたたら製鉄史料集』が刊行されました。新たに頒布はできませんが、県内の図書館に所蔵があるほか、当研究室ホームページではPDF版が閲覧できます。

この史料集は、近世播磨でさかんに行われていたたたら製鉄を知るための手がかりとして、「播州宍粟郡鉄山請負御用留」「千草屋手控帳」「鉄山一件」という3点の史料の全文翻刻と、解説を掲載しています。いずれも、たたら研究班メンバーの地道な作業の積み重ねによる成果です。

この成果を発信するため、9月19日には、当館を会場にしてシンポジウム「近世播磨のたたら製鉄―その実像に迫る―」を開催しました。たたら研究班の土佐雅彦、笠井今日子、大槻守の各氏から研究発表を行い、この史料集に掲載された史料の意義を語っていただきました。
また、史料集に掲載された史料のうち、「御用留」と「鉄山一件」は、当館が所蔵するものです。そこで、当館の歴史工房という無料スペースで「近世播磨のたたら製鉄史料」というミニ展示「近世播磨のたたら製鉄史料」を行いました。

歴史工房でのミニ展示会

当館では、播磨のなかでも特にたたら製鉄がさかんに行われた宍粟郡の史料を所蔵しています。このことから、史料集に掲載できなかった史料も用いて、たたら製鉄と、それが行われた地域の様子がわかる史料を展示しました。

たとえば、当館が所蔵する東安積・須加村文書に含まれる「宍粟郡山方役所勤方覚書」(1818年、1849年の2冊)は、幕府の代官所の出先機関として宍粟の山の産物を管轄していた山方役所の事務概要を記録したものです。おそらく山方役所代官が異動する際の引き継ぎ宇として用いられたものと考えられます。そこからは、製鉄や林業、川漁、商業など、宍粟の山を舞台とした諸産業のあり方を知ることができます。

嘉永2年(1849)山方役所勤方覚書

こうした史料は、すでに2004年、当館において企画展「播磨北部の生業と武士」で紹介されたものですが、歴史研究室の地道な研究活動を通じて新たに見直され、再び展示利用の機会を得ることができました。

当館が所蔵する史料を、歴史研究室が調査し、その成果を史料集や展示を通じて発信する――このような歴史研究室の活動は、博物館資料の多様な活用をめぐるひとつの実践と言えます。こうした活動が、資料の幅広い利用に結びつくことを期待します。