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仏涅槃図ぶつねはんず

ブッダ(お釈迦さま)は、古代インド暦2月15日の夜、クシナガラ(拘尸那城)のヒラニヤヴァティ河(跋提河:ばつだいが、また熙連河:きれんが)のほとりで、沙羅双樹(さらそうじゅ)の間に、頭を北に向け右脇を下にして、亡くなったといいます。この死を涅槃といいます。 涅槃やその前後の出来事は、「涅槃経」と総称される仏教経典に記されています。小乗系におくれて成立した大乗系の「涅槃経」では、奇跡を多く挿入し、涅槃をブッダが永遠の真理に帰ったこととしてとらえました。

仏涅槃図
鎌倉時代 1幅 絹本着彩 掛幅装
171.3×161.3cm 国指定重要文化財
仏涅槃図
室町時代 1幅 絹本着彩 掛幅装 225.9×165.4

ブッダ(お釈迦さま)は、古代インド暦2月15日の夜、クシナガラ(拘尸那城)のヒラニヤヴァティ河(跋提河:ばつだいが、また熙連河:きれんが)のほとりで、沙羅双樹(さらそうじゅ)の間に、頭を北に向け右脇を下にして、亡くなったといいます。この死を涅槃といいます。 涅槃やその前後の出来事は、「涅槃経」と総称される仏教経典に記されています。小乗系におくれて成立した大乗系の「涅槃経」では、奇跡を多く挿入し、涅槃をブッダが永遠の真理に帰ったこととしてとらえました。

涅槃を描いた絵画を、仏涅槃図と呼びます。日本の寺院では毎年、陰暦2月15日にお釈迦さまを追慕(ついぼ)する涅槃会(ねはんえ)が開かれ、その本尊として仏涅槃図が掛けられてきました。

全図解説

甲本 仏涅槃図

甲本の仏涅槃図は、ベッド(宝床)は足もとの面をみせ、ブッダの足もと手前(南西)の低い目線から見上げるようにして捉えた構図となっています。右の体側を下にしたブッダは、両腕を体に沿って伸ばし、枕にした小さな蓮台に右頬をあずけています。こうした基本構成は、古様の図像に特徴的なものです。

甲本 仏涅槃図

比較的珍しい表現として、虚空に天の楽器が奏でられ、2体の天人が散華(さんげ)して、花や花びらが舞うこと。仏母(ぶつも)の摩耶夫人(まやぶにん)が侍女とともに単独で飛来すること。供物台の上に飯椀や仏鉢が並べられること、などがあります。
こうした表現には、早くから成立していた小乗系の『長阿含(あごん)経』巻第四にある、忉利天(とうりてん)の虚空から涅槃するブッダに花降らされたこと、摩耶夫人が涅槃時に詩を詠じたこととの、影響関係を読みとることも可能でしょう。

甲本 仏涅槃図
甲本 仏涅槃図

しかし中国で撰述(せんじゅつ)された偽経(ぎきょう)の『摩訶(まか)摩耶経』にははっきりと、天女たちに妓楽(ぎがく)や焼香(しょうこう)、散華、歌頌(かしょう)、讃歎(さんたん)をさせながら摩耶夫人が忉利天より飛来し、ブッダの遺品の僧伽梨衣(そうかりえ)・鉢・錫杖(しゃくじょう)を手にとったと記され、絵画と最も一致します。

甲本 仏涅槃図
甲本 仏涅槃図
甲本 仏涅槃図

また、同話を記す偽経『仏母経(ぶつもきょう)』は、天女の焼香、散華などへは言及しませんが、ブッダの遺品について、僧伽梨衣は棺の上、鉢と錫杖は樹上に掛かる、と記します。この絵では、僧伽梨衣はまだブッダが身にまとっており、仏鉢の一つは供養台に置かれていますが、もう一つの仏鉢を結わえられた錫杖は沙羅双樹に立てかけられており、この点では『仏母経』と似ています。同場面を絵画化した類例として、この絵に先行する「仏涅槃図」(東京国立博物館蔵)もあげることができます。平安時代後期の制作である「仏涅槃図」(東京国立博物館蔵)には、ブッダの枕元に摩耶夫人と錫杖、供物台の上の仏鉢と僧伽梨衣をまとめて配置しており、虚空に散華する天人をも描き、本絵画とよく類似しています。

甲本 仏涅槃図
甲本 仏涅槃図

この先、偽経『摩訶摩耶経』、『仏母経』では、摩耶夫人が遺品を手にとり息子の死を嘆くことで、ブッダは棺から起きあがり説法をする(再生説法)、というブッダの永遠性をよく示した展開へと続きます。したがって摩耶夫人を切り口として分析したとき、この絵は、再生説法を予感させる人物や遺品を巧みに配置することで、ブッダの永遠性を視覚的に主張した大乗仏教的な仏涅槃図だといえます。

乙本 仏涅槃図

乙本の「仏涅槃図」は、ベッド(宝床)は枕もとの面をみせ、ブッダの枕もと手前(北西)のかなり高い目線から見下ろすようにして捉えた構図となっています。右脇を下にした皆金色(かいこんじき)のブッダは手枕をしており、小乗系の『仏所行(しょぎょう)讃』に基づいた表現を採用しています。この基本構成は、新しい図像に特徴的なものです。
このほかにも多く、日本の中世後期に通例なモチーフで構成されています。

乙本 仏涅槃図

たとえば、ベッドを取り囲む沙羅双樹(さらそうじゅ)は、東西南北にそれぞれ2本ずつ立っており、白鶴のように変白し枯れていること。また、悶絶(もんぜつ)するアナンダ(阿難)にアヌルッダ(阿那律)が水をかけること。ブッダの両足を老婆が接足礼拝(せっそくらいはい)することなど。これらは大乗系の四〇巻本『大般(だいはつ)涅槃経』や、その続編『大般涅槃経後分(ごぶん)』に典拠のある表現です。

乙本 仏涅槃図
乙本 仏涅槃図
乙本 仏涅槃図

また、飛来する摩耶夫人(まやぶにん)をアヌルッダまたはウパーリ(憂波梨)とみられる仏弟子が先導すること、仏鉢と錫杖(しゃくじょう)とが樹上に掛けられていることは、偽経『摩訶(まか)摩耶経』や『仏母経(ぶつもきょう)』に由来します。
「仏涅槃図」の構成やモチーフが定型化した背景には、仏伝(ぶつでん)を記した『釈迦譜』や「四座講式(しざこうしき)」等をつうじた、あらかじめ抽出された「涅槃経」の受容のあり方が作用していたのかもしれません。

ストーリーでは、涅槃に遅れてきたまやちゃんが、錫杖を地に投げつけます。これは「涅槃経」ではなく、日本で初めて仏伝を編纂(へんさん)した『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』巻第三-三三に取材しました。この『今昔物語集』でも、忉利天(とうりてん)に転生したまやちゃんは、涅槃後の再生説法と、そして以前には忉利天説法で(『同』巻第二-二)、それぞれブッダから説法を受けたことが記されています。こうしたエピソードは、まやちゃんが将来、無事に悟りを完成するであろうという予感を感じさせます。

ここまでが本文です。