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公家物住吉物語

 むかし、中納言には二人の妻がおりました。一人はお金持ちの娘で、姫君を二人生みました。もう一人は皇女の血をひく娘で、美しい姫君を一人生みました。
美しい姫君は宮姫と呼ばれ、大切に育てられました。
しかし宮姫が7歳の時、宮姫を入内(じゅだい ※天皇と結婚すること)させて欲しいとの遺言を残し、母は亡くなってしまいました。宮姫はしばらく乳母(めのと)に育てられていましたが、やがて中納言の家に引取られました。継母(ままはは)のもとで、腹違いの妹・中の君、三の君とともに暮すことになりました。乳母も亡くなったので、侍従(じじゅう)という乳母の娘が、宮姫の身の回りを助けることになりました。
 この中納言の家に、右大臣の息子の四位の少将という男君が訪れました。宮姫の噂をきいた男君は、宮姫にたびたび恋文を送りました。宮姫が気乗りしないうち、継母は謀(たばか)って、男君と自分の娘の三の君とを結婚させてしまいました。その年の正月、宮姫は姉妹そろって嵯峨野に出かけました。先回りした男君は、宮姫の美しい姿を垣間見て、恋心を再燃させました。
九月になると父の中納言は、宮姫の入内の準備をすすめました。継母は、宮姫のもとには先月から六角堂の別当法師が通っている、と嘘(うそ)をつき、頓挫させてしまいました。宮姫は侍従とともに悲しみ、悪い噂がたたぬようじっと堪(こら)えました。
 十月のこと、中納言は内大臣の息子と宮姫との縁談をすすめました。宮姫は喜びもせず尼になりたいと考えました。しかし、この縁談をねたんだ継母は、主計の助という老人の後妻にしてしまう計画を立てました。これを知った宮姫と侍従は、亡き母の乳母が尼となって住吉にて暮していることを思い出し、二人で家を脱出し、尼のもとに身を寄せました。 住吉の尼の住まいは、西に淡路島の見える静かな場所で、小さな持仏堂には阿弥陀三尊(あみださんぞん)を祀っていました。宮姫と侍従は、朝に夕に御仏(みほとけ)の前で、お経を読み花を供えました。
 宮姫の失踪が明らかになった中納言の家では、継母をのぞいて、皆が嘆き悲しみました。男君は、宮姫との再会を祈って初瀬の観音に参籠しました。すると明け方、夢に宮姫が現れ、住吉にいることを教えられました。同じ頃、宮姫の夢にも男君が現れ、居場所を尋ねられました。男君は、初瀬から住吉へと旅を続け、無事、宮姫との再会を果たすことができました。京に戻った二人は結ばれ、ほどなくして子を授かりました。年月が過ぎ、宮姫と父は再会し、嬉しさに涙をこぼしました。これまでの悪事が明るみになった継母は、宮姫の父から別居され惨めなまま最期を迎えました。

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