4月24日(土)、特別企画展「広告と近代のくらし」が開幕しました。明治から昭和にかけて、近代の社会ではさまざまな広告が生み出されてきました。多彩なデザインをもつ広告の変遷を通じて、近代のくらしの移り変わりをたどるというのが、本展の内容です。
3年前に当館に着任した筆者にとって、初めて主担当として企画したのが本展です。その意味で、思い入れのある展覧会ですが、この時期に開催したという意味でも、これからきっと忘れられないものになると思います。

というのも、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、開幕翌日の25日(日)から当館は臨時休館となってしまったからです。感染症の拡大を防ぐためには、やむを得ないことでしたが、1日だけ開催してそのまま休館というのは、展覧会を企画した者として、なかなか複雑な胸中でした。

特別企画展「広告と近代のくらし」会場入口

本展では、Youtubeを活用した展示解説を3回に分けて企画していましたが、臨時休館をうけて当初の予定を早めて、展示解説動画を1本掲載しました。ご覧いただけると幸いです(音声はありません)。

もともとこのコラムでは、展覧会の概要について書くつもりでしたが、猛威を振るう感染症とのかかわりで、本展の一部について紹介したいと思います。

展覧会のなかでは、ポスターやチラシなどを多く展示しましたが、それらは人々に何らかのメッセージを訴えかけることを目的として作成されたものと捉えることができます。そうした文脈をうけ、最後には「新型コロナウイルス感染症と博物館」という展示を設けました。
ここでは、感染症の拡大をうけて当館が行った対応について知ることのできる資料の一部を展示しています。

日本における新型コロナウイルス感染症の最初の拡大をうけ、当館は、臨時休館や展覧会の会期変更などを余儀なくされました。日々変化する博物館の運営に関する諸情報や、感染拡大防止の取り組みを伝えるため、博物館の建物には多くの文書やポスターが掲示されました。
これらは、来館者に情報を伝えるという本来の役割を終えてからも、この感染症が社会にどのような影響を与えたのかを後の時代に伝える役割を持っています。

新型コロナウイルス感染症に関する展示のようす

たとえば、特別企画展「スケッチでたどる兵庫の建築と景観」のポスターは、2020年3月22日までの会期を伝えています。しかしこの展覧会は、最初の臨時休館が続いたことで、会期途中の3月20日で閉幕となりました。臨時休館がいつまで延長されるかは見通しが立たず、もはやポスターを通じては、会期途中での閉幕を告げることはできませんでした。
それに続く特別展「驚異と怪異」は臨時休館の影響をうけ、会期を大きく変更して開催しました。そのポスターでは、会期変更と、感染症対策に関するお願いについて記したシールが貼られています。この特別展は、臨時休館後に再開してから初めての展覧会でした。感染症対策への注意を呼びかけるため、職員が手作業でポスターにシールを貼り付けました。開催するにあたって、これまでポスターに記載してきた基本情報に、何を付け加えねばならないかを、博物館が考えた痕跡と言えます。
これら感染症の影響を受けた2つの展覧会のポスターからは、感染症拡大初期における博物館が対応したこと(できなかったこと)や、試行錯誤の過程を読み取ることができます。

そのほか、臨時休館を知らせる文書は、四隅にテープが貼られ、破れています。これは、博物館を再開する際に掲示物を撤去したときのものをそのまま展示しています。
また、職員が携行していた感染拡大防止マニュアルには、何度もページをめくった痕が残り、メモや付箋(ふせん)が付いています。
このように、テープの痕跡や破れ、しわ、汚れ、メモは、その文書が実際に現場でどのように使われていたのかを知る手がかりとなります。

ここまで紹介してきたものは、この約1年間に作成されたもので、歴史博物館の資料とは言いがたいものかもしれません。しかし、将来的に歴史資料となるこうした資料を収集・保存することも博物館の務めです。今回の感染症についても、いくつもの博物館が関連する資料の保存に取り組んでいます。よく知られているところでは、北海道の浦幌(うらほろ)町立博物館は、かなり早い段階で感染症に関係する資料の収集を始めています(持田誠「”コロナな世相”を語り継ぐために」『浦幌町立博物館だより』2020年5月号 ※リンクをクリックするとPDFファイルが開きます)。

また、山梨県立博物館は、県内の過去の自然災害や感染症に関する資料の収集とのかかわりで、現在の新型コロナウイルス感染症の資料収集にも取り組んでいます(小畑茂雄「災害・パンデミックに関する資料収集に向けて」『山梨県立博物館研究紀要』第15集、2021年 ※リンクをクリックするとPDFファイルが開きます)。

こうした現在の感染症関係資料を収集する取り組みの背景には、将来的に歴史資料になるものの保存・収集をめぐる、これまでの積み重ねがあると、筆者は考えています。
たとえば1970年代以降に本格化する空襲・戦災関係資料をはじめ、関西においては公害関係資料の収集・保存の成果があります。
そして兵庫県が直接に関わる事例で言えば、阪神・淡路大震災に関する資料の大規模な収集の取り組みがありました。このような動きは、その後、中越地震や東日本大震災を経て、全国的に広がっています。
各地で新型コロナウイルス感染症に関する資料保存の取り組みが進みつつあることの背景には、こうした流れがあるのかもしれません。
当館が行っているのは、あくまでも当館自身が作成して使用したものを保存しており、小さなレベルでの取り組みですが、この感染症の経験を、将来へ伝えていくための大切な手がかりだと考えています。

特別企画展「広告と近代のくらし」は、5月12日(水)に再開し、開催期間を7月4日(日)まで延長します。この展覧会も感染症の影響を受けた事例として、ポスターを展示したりするかどうかは未定ですが、感染症対策には万全を期していますので、是非お越しいただきたく思います。