学芸員コラム
2024年9月21日
第160回 ユニバーサルミュージアムとれきはく
「ユニバーサルミュージアム」という言葉をご存じでしょうか?
ユニバーサルデザインを取り入れ、誰もが楽しめる博物館を目指す、これがユニバーサルミュージアムの考え方です。当館の博物館の使命として「ひょうごの未来へのかけはしとなる博物館」を掲げており、使命実現のための目標として「人と未来のかけはし」(年齢や性別、使用言語の違い、障がいの有無にかかわらず、誰でも楽しむことが出来る交流の場となることを目指す。)というものがあります。さて、今回の学芸員コラムでは、当館が取り組んでいるユニバーサルミュージアムの活動をご紹介します。
上の写真は、当館1階にある展示室「みんなの家」の看板です。注目していただきたいところは英語表記。「Hands-on Room」とは、「ハンズオン展示(触る展示)」を意味しています。この「みんなの家」では「触って、遊んで、学べる展示室」ということで、展示室内のほぼ全てのものを触って体験していただけます。また、展示室内には点字でのキャプションも設置しています。
展示室の入口でお迎えしてくれているのは木曽馬の「レッキー」です!木曽馬は日本で昔から飼われていた「日本在来馬」の一つで、武士や武将に好まれて飼われていたり、農耕馬や荷馬として活躍しました。ここではそんな木曽馬に実際に乗ることができます。「人前で乗るのはちょっと恥ずかしいな・・・」という方もぜひお顔を撫でてレッキーを可愛がってあげてください!
こちらは「AR着付け体験」ができるコーナーとなっています。リニューアル前までは、実際に鎧や十二単の着付け体験を行なっていましたが、AR(拡張現実)となって戻ってきました!ARとは現実空間にバーチャルな画像を重ね合わせて表示する技術のことで、お客様ご自身のスマートフォンを使って、誰でもすぐに鎧と十二単の着付け体験ができるといったものです。もちろん自撮り機能を活用して撮影していただくことも可能で、来館の記念に撮影してみてはいかがでしょうか?
これは「触図(しょくず)」と呼ばれるもので、印刷した平面の画像に凹凸をつけたアクリル板を重ねて作ったものです。視覚に障がいのある方が城絵図のような平面の資料を捉えるのは困難なため、描かれている絵図のおおよその輪郭を知る補助的な役割のために作成しました。堀や塀で質感を変えることでその違いを表しています。
この狛犬たちは、3Dプリンターで作成された「さわれる資料」です。実際の資料と比べて一回りほど小さく作られており、両手で包んだときに収まるようなサイズで作成されています。こちらも視覚に障がいのある方が、資料の全体を把握できるようにサイズを工夫しています。また、普段ケースに展示されることが多い仏像に触れたり、背面や細部を観察することができるところもオススメポイントです!
展示室奥には、日本家屋をイメージした空間が広がっており、おはじきやだるま落とし、こまといった昔のおもちゃで遊ぶ体験ができます。
その他、スマートフォンアプリ「ポケット学芸員」を使って常設展示の音声ガイドを聞くことができます。海外の方に人気なお城関係の1階「姫路城大解剖」と2階「日本の城大百科」については、英語での音声ガイドも導入しています。
また、当館ではユニバーサルミュージアムの取り組みとしてイベントも実施しています。
年に数回行なわれる「ユニバーサルイベント」では、より多種多様な方々に共に楽しんでいただけるよう、できる限りの対応を行なうイベントを実施しています。年齢制限もなく、小さなお子様でも参加できる内容のワークショップを、使用されている言語が英語の方には英語の作り方のペーパーを、といったようにその時の参加者の方に限りなく寄り添った形でのイベント実施を心掛けています。
また、昨年度からは展覧会の解説に手話通訳をつけたイベントを実施することも増えてきました。今後は定例化していき、聴覚に障がいのある方にもより資料の魅力を伝えていけたらと思っています。
会場風景
こちらは令和5年度から始まった兵庫教育大学との連携イベント「れきし博士スクール」です。対象は小学校高学年から中学生で、昨年は「源平合戦図屏風」、今年は「熊野観心十界図」をテーマに資料の読み解きを行ないました。資料から読み取った情報や疑問点などをまなボードに書き込みブレインストーミングをしていき、資料担当の学芸員がその疑問に答えていくという内容です。実物資料がある博物館だからこそできるイベントで、子どもたちに資料の魅力や歴史の楽しさ、博物館という場所を知ってもらうとてもいい機会となっています。
れきし博士スクール「地獄の世界へようこそ」 まなボードを使った活動
今回のコラムでは、兵庫県立歴史博物館が現在行なっているユニバーサルミュージアムの取り組みについて紹介しました。「人と未来のかけはし」となるよう、これからも展示やイベントなどでユニバーサルな観点を取り入れて行きたいと思います。今後のれきはくの活動にもご注目ください!