菅原道真

毎年受験の時期になると、各地の天神様は祈願に訪れる学生で繁盛する。いかに優れた人だったとはいえ、藤原氏の陰謀のために左遷された晩年を考えると、どうしてこんなに人気があるのかと不思議な気もするが、どちらかというと悲運の人をひいきするのが、日本人の気質なのかもしれない。神様に祭り上げられた菅原道真(すがわらのみちざね)も、さぞやあの世で苦笑していることだろう。

道真が右大臣から大宰府に左遷されたのは、延喜元(901)年である。中央行政府の中心的地位から、出先機関の次官に落とされたのだから、道真の悲嘆はいかばかりであったろう。そのせいもあってか、大宰府に行ってわずか3年で没している。

兵庫県に残る伝説は、どれも、道真が都から九州へ下る途中の物語である。

用語解説

長洲天満神社

鳥居
鳥居
境内
境内
拝殿
拝殿
長洲天満神社
長洲天満神社

長洲天満神社(ながすてんまんじんじゃ)は、尼崎の市街地のまん中にある。長洲という地名からは、河口に開けた浜を想像するけれど、今の海岸線までは5kmほどもあるだろうか。源頼朝(みなもとのよりとも)に追われた義経(よしつね)主従が、西国へ逃れようと船出した大物(だいもつ)は、長洲のすぐ南である。

大物主神社
大物主神社
大物主神社
大物主神社
説明板
説明板
大物橋跡の石碑
大物橋跡の石碑
大物主神社と大物橋(摂津名所図会)
大物主神社と大物橋(摂津名所図会)

神社を訪ねたのは早朝であった。隣にはしる道も、まだ車が少ない時間帯であったが、一人、また一人と参拝に訪れる人が、皆熱心に拝んでいるのには驚き、感心させられた。町中の神社だから、神秘的とか荘厳といった形容詞は当たらないが、多くの氏子さんが熱心に守ってこられたのがよくわかり、うらやましいような気もする。

境内の南に、「菅公足洗の池」がある。船から下りた道真が足を洗ったという池だが、今はコンクリートで固められている。

菅公船つなぎの松石碑
菅公船つなぎの松石碑
説明板
説明板

神社から500mほど東の、長洲小学校北門わきには、菅公船つなぎの松跡がある。道真が船をつないだ松の木があったといい、石碑が立っている。元の松は枯れてしまい、今は若い松が植えられている。

長洲の周辺では、道真の古跡が、今もそれぞれ大切にされている。道真をわずかな時間早立ちさせた鶏を飼わず、道真のためにしおれなかった葱(ねぎ)を作らないなど、心から道真を慕った伝説の心は、大都市として発展してからも消え去ってはいない。

用語解説

匂いの梅と板宿天満宮・綱敷天満宮

菅公匂いの梅

菅公匂(にお)いの梅旧跡は、JR兵庫駅と新長田駅のほぼ中間、長田中学校近くにある。現在は石碑だけがその跡を伝えるだけである。伝説どおり、ここから板宿八幡神社(いたやどはちまんじんじゃ)あたりまで歩くとなると相当の距離である。

板宿八幡神社と天満宮

板宿八幡神社
板宿八幡神社
板宿八幡神社の拝殿
板宿八幡神社の拝殿

板宿八幡神社は、板宿駅北西の尾根の上にある。板宿駅から妙法寺川に沿って、坂道を500mほど上り、そこからさらに住宅街の細い道を上った尾根の上に神社がある。境内の一角に小さな宮があって、この中にかつて境内にあった飛松の株が残されている。
境内からの眺望は素晴らしく、晴れて澄んだ日なら大阪の山まで見えそうだ。この飛松が、若々しい葉をつけていたころには、船人たちの目印になったというのもうなずける。

飛松天神社
飛松天神社
飛松天神社
飛松天神社

ここでも目につくのは、合格祈願の絵馬である。生真面目なものから、いかにも現代風のものまで、道真さんへのお願いはひきもきらない。

綱敷天満宮

鳥居から拝殿を見る
鳥居から拝殿を見る
拝殿
拝殿

板宿八幡宮の南西2km少しの所には、綱敷天満宮(つなしきてんまんぐう)がある。ほぼ同じ故事を伝える綱敷天満宮は福岡県にもあるので、上陸した道真に、漁師が綱を敷いて座を作ったという話は、広く語られていたのかもしれない。

社殿は新しい町中の天満宮だが、参詣(さんけい)に訪れる人は多いようだ。

用語解説

播磨路の道真

須磨(すま)を経た後、道真は山陽道で西を目指した。太政官の命令は途中の駅家にも発せられていて、乗り継ぎの馬や食料も与えてはならないという、実に厳しいものであった。いかに道真憎しとはいえ、意地の悪い命令である。途中、明石(あかし)の駅に立ち寄った道真は、旧知の駅長に「駅長、時の変改を驚くなかれ。一栄一落、これ春秋。」という漢詩を与えたという。明石の休天神には、菅公腰掛け石があるという。

さらに西には、加古川市(かこがわし)の浜宮天神社(はまのみやてんじんしゃ)、高砂市(たかさごし)の曽根天満宮(そねてんまんぐう)、赤穂市(あこうし)の坂越天満宮(さこしてんまんぐう)と、山陽道に沿って道真が立ち寄ったという伝承地が連なっている。

用語解説