ひょうご歴史研究室共同研究員 藤田 淳

たたら製研究班の藤田淳(きよし)です。ひょうご歴史研究室には発足当初から研究員として参加していますが、最初は『播磨国風土記』研究班に所属していました。丹波市出身の私にとって『播磨国風土記』は身近なものではありませんでしたが、考古博物館の学芸員だった時、平成25年の特別展「播磨国風土記-神・人・山・海-」を担当したことが縁で『播磨国風土記』班の研究員となりました。

それを契機に平成28年度には歴史博物館所蔵の播磨国風土記(複製品)全文陳列の展覧会を企画しました。ひょうご歴史研究室を軸に考古博物館と歴史博物館の共催で展覧会を実現することができたことで、二つの歴史系博物館がはじめて連携した事業となりました。

その後、平成30年度からは、たたら製鉄研究班に移り、翌年、職場も考古博物館から地元に近い兵庫陶芸美術館に代わって今日に至っています。

たたら製鉄に関しても全くの門外漢でしたが、『播磨国風土記』の特別展の際に、考古博物館のボランティアさんと協働で砂鉄と炭で鉄をつくる実験的なイベント「再現!たたら製鉄」を開催したことを契機に足を踏み入れることになりました。なにぶん静かに本を読むよりも、体を動かすことのほうが性に合っているので、考古博物館在籍時は数多くのイベントを手がけましたが、たたら製鉄だけは失敗の連続で、忸怩たる思いを抱えたままになっています。

とはいえ、平成24年1月に初めて試験的に実施した時には、途中での「ノロ出し」でトロッと流れ出るノロ(鉄滓)に歓喜の声をあげ、少量の鉄も得ることができたのです。まさにビギナーズラックそのものでした。しかし、その後は「ノロ」の姿を見ることもなく、七輪を積み重ねて作った炉の底に残ったものが磁石にしっかりとくっつくことはありませんでした。

そもそも、砂鉄は鉄の酸化物であり、鉄そのものではありません。高温の炉の中で起きている化学変化は、0℃を境に氷が水になり、水が氷になるような単純なものではなく、炭素によって砂鉄に含まれる酸素が段階的に奪い取られるという還元反応です。また、チタン、リン、イオウなどの不純物を取り除くことも重要です。

  1. 炭と酸素が反応して、一酸化炭素ができる。
    2C + O2 → 2CO(一酸化炭素)
  2. 砂鉄が炉内を降下する過程で、一酸化炭素と反応し、酸化第一鉄と二酸化炭素ができる。
    Fe3O4(砂鉄の主成分) + CO  →  3FeO + CO2
  3. より高温の領域では、酸化第一鉄と一酸化炭素が反応して、鉄が取り出される。
    FeO + CO  →  Fe + CO2
  4. 炉下部の高温域においては、酸化第一鉄と炭素が直接反応して鉄と一酸化炭素ができる。
    FeO + C   →  Fe + CO

先人たちは化学の知識はなくても、経験的にもとづき砂鉄から鉄を作るために必要な技術をあみだし、炉の形や規模、送風装置なども改良を加えてきました。(公財)日本美術刀保存協会が運営し、現在でも唯一稼働している日刀保たたらでは1回で2.5トンもの鉄(鉧 けら)の塊を製造しています。

のどかな田園風景が広がる丹波の山里で田舎暮らしを楽しみながら、いつの日かリベンジを果たしたいと密かに思っています。

1 磁石を使って千種川で砂鉄採取
2 七輪を3段積んだ炉に炭を投入
3 炉から流れ出るノロ(鉄滓)磁石にはつかない
4 炉の底にできた鉄の塊 磁石にくっつく