年度末に出る『ひょうご歴史研究室紀要』に室長として、年度年度のことがらを総括的に書かせてもらっております。性格上、四角四面ばった書き方をしていますが、5年目に入ったこともあり、今回は、随想風に思うところを書きたいと思います。

研究室には、『播磨国風土記』研究班・赤松氏と山城研究班・たたら製鉄研究班の三つの班がありますが、共通する特徴は、兵庫県内でも播磨に集中して調査研究していることです。その意味で、五国からなる兵庫県のうち<播磨>がクローズアップされていると言うこともできます。お蔭で播磨の各地には、研究室の催しを通じて現地に伺う機会が増えています。馴染めばそれだけ愛着も湧き、関心も強くなってくるものです。

そんなところに「播磨風土記」を通じて思いがけない出会いがありました。今年の3月、「播磨風土記」の英訳本Harima Fudokiを出版したイギリス人女性と出会う機会があったのです。

その人の名はパーマーさんEdwina Palmer。英語圏の日本関係書籍の出版社として知られたオランダのブリル社から2016年に刊行されました。長年、海外の日本研究の動向に関心があったことからブリル社の名前は知っていましたが、そこから英語版の「播磨風土記」が、残された風土記のうちもっとも体裁が揃っているという「出雲風土記」でなく「播磨風土記」が、それに先んじて出るとは驚きでした。冒頭、三条西家本の複製(巻物)の写真が収められていますが、その写真をわたしどもの兵庫県立歴史博物館が提供したことから、お礼としてわたしの手許に届いたのです。まるで歴史研究室の風土記班の存在を知っているかのように。まことに奇しき因縁です。

「源氏物語」は、およそ百年前に英訳が始まっていますが、英訳の前提には、優れた現代日本語訳がなければなりません。古典日本語を直接、英語にするのは至難の業です。風土記も同じで、漢文一色の風土記の読解は専門家でない限り、現代日本人には不可能です。したがって「風土記」には複数の日本語訳が出ていることが、パーマーさんをして単独、英訳に挑戦させる理由であったと思われます。

それにつけてもなぜ、「播磨風土記」か―という素朴な疑問があります。会ってわかったことは、「播磨風土記」には、神々の説話や地名伝承・隠喩などが豊かだからだということです。言い換えると「播磨風土記」には、古典文学的な要素が色濃く存在しているということでしょうか。それが、ギリシア神話など西洋の古典に親しんできた背景を持つパーマーさんをして「播磨風土記」に向かわせたのだと思われます。

現在はニュージーランドのクライストチャーチ(数年前に大きな地震がありました)に住んでおられますが、ロンドン大学のご出身で、夫君ルーツさんはヨーロッパの中世史専門家という学者夫妻です。しかも、ご両人の愛息が現在、東京大学で学んでいるということから、親日家のほどが窺えます。風土記班のメンバーと夕食を伴にした翌日には、坂江プロジェクトリーダーの案内で宍粟市の伊和神社を訪問されたと聞きます。

近い将来、再度日本に来られる機会があるならば、是非とも、聴衆の前で、「西洋人から見た播磨風土記の魅力」について語ってほしいと密かに期待しています。

令和元年7月