館長ブログ
2026年1月30日
温泉と人々をつなぐ歴史 企画展「ひょうご温泉まちめぐり」がはじまりました。
すこし遅くなりましたが、新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。さて博物館では、1月24日の土曜日から企画展「ひょうご温泉まちめぐり」が始まりました。今回の企画展のメインテーマは「温泉」とそれを支え発展させてきた「まち」です。
「温泉」という言葉から皆さんはなにをイメージしますか。
私も温泉は大好きで、大げさに言えば、私の人生の一部をなす存在でないかと思うぐらいです。県内で泊まり込みの歴史資料調査で、県内の温泉まちを訪れることも多く、ゆっくり温泉につかるのは、仕事が終わった後の代えがたい楽しみでもあります。おそらく私と同様、多くの方々にとって生きる楽しみのひとつとして、様々な形で温泉のイメージが浮かぶのではないでしょうか。
今回の企画展は、「まち」という場に注目しています。そこから温泉が人々を魅了し、愛され続けてきたのかを探るものとなっている点が、オリジナルでとても重要です。当たり前かもしれませんが、「温泉」は、単に温泉が湧いているということだけで存在するのではなく、「温泉」をめぐって、人々が出会い、その場である温泉まちを、超えて継承、発展させていくことではじめて成り立ちます。そして時代を重ねる中で、温泉をめぐる人々の関係は「温泉文化」といえるだけの深みを増します。今回取り上げる有馬・城崎・宝塚・湯村の4つの「温泉まち」の展示資料は、そのことをわかりやすく伝えるものとなっています。
近年、ウェルビーイングという言葉が良く使われるようになってきました。日本語にすると良く生きるという意味となり、漠然とした感じになりますが、身体的な健康と、精神的な健康や社会的充足感等の文化的な要素をあわせて、「生きる」ということの意味を問うという見方です。温泉文化の歴史を扱う本企画展は、その意味でウェルビーイングを歴史的に考えるものでもあります。
たとえば、今回、元治元年(1864)に城崎温泉の温泉寺薬師堂に奉納された奉納額が展示されています。これは「手の下駄」なるものを板に貼り付けたものです。私はこのような展示資料をはじめて見たのですが、この「手の下駄」は、手をついて歩いていた際に使用していたものと推測されています。この板の墨書によると奉納者は現在の群馬県の18歳の青年で、前年4月に立てなくなり、膝や尻を床につけて歩くようになり、四国・西国巡礼にも行ったが効果はなく、城崎で療養を始めたところ14日で立てるようになったため、帰国前に御礼として「手の下駄」を奉納したと記されています。この展示資料からは、多くの人々が城崎に湯治に来て、そこで様々な出会いがあり、まさにそこが良く生きる場であったということが、リアルに伝わってきました。
4つの温泉まちは、それぞれ個性的な形で発展しますが、展示資料からは、その時代ごとの人々の生き方や楽しみ方が次々浮かび上がってきます。普段公開されていない本館所蔵の有馬温泉寺縁起(えんぎ)や行基像、織田信長像、豊臣秀吉像をはじめとして、神戸有馬電鉄沿線名所交通図、宝塚繁昌双六など近現代の貴重資料も展示しています。またそれぞれの温泉まちからも多くの資料をお借りして見応えのあるものとなっています。湯村温泉からは「夢千代日記」関連資料もお借りして展示しています。本企画展を見て、4つの温泉まちを訪れていただくことで、それぞれの温泉まちの多様なイメージが広がり、温泉文化の魅力を感じていただければと存じます。



