11月に入り博物館を囲む仮囲いの工事が進み、博物館への出入りも、囲いに開けられた出入り口1カ所に限られています。今朝は大きなクレーンの下を潜って入館しました

 これまでは、館の周囲に生える灌木の下をショートカットするなど、気ままに歩いて入館していたのが嘘のようです。来年の暮れまで、囲いの中の生活になります。

 さて大規模改修工事が始まることで、長年、博物館施設の設備管理・清掃等を担ってきた人たちの姿も一部の人たちを除いて見えません。大規模改修工事(以下「工事」という。)の開始とともに、総合ビルメンテナンス会社(以下「会社」という。)との設備等の保守委託契約期間が満了したことによるものです。そのことを知り、契約期間満了前後に、リーダーであるお二人にインタビューをさせてもらいました。清掃部門では塚田啓子さんに9月24日、設備部門では太田正治さんに10月6日、それぞれ取材させてもらった内容を、今月のブログでは取り上げます。

1 塚田啓子さんへのインタビュー

塚田啓子さん(左)

 「いつ博物館に来られましたか」という質問に即座に、平成11(1999)年10月26日と回答されたのに驚きました。その日、場所を間違って隣の日本城郭研究センターに入ってしまったそうで、しばらくの間、館内の複雑な構造が分からず、しばしば「迷子になっていた」とか。

 当時50歳前で、娘さんから勧められて会社の求人募集に応募。パートとして採用され、翌年12月11日には正社員に採用され、博物館では女性4名男性1名の清掃グループの責任者になったそうです。「すごく不安があったが、雰囲気がよく、とくにボランティアの人たちとわたしたちとの交流が印象的でした」「一度、ボランティアの人たちとともにNHKテレビ「おーい日本」に出たことがある」と懐かしそう。今年まで20年以上博物館で清掃の仕事に携わってきましたが、「そんなに長くいたという実感はない」との一言に、仕事の充実ぶりが現われています。

 平成19年に当館はリニューアルしていますが、その際、博物館の清掃部門では「自分一人を残して他の人は辞められ、リニューアル後、今のメンバーになった。」「65歳で定年となり、その後は嘱託として勤務中だが、会社は年齢よりもやる気と体力を優先してくれている」とのこと。

 仕事ぶりを聞くと、「仕事は朝8時に来て、10時の開館までの間に館内を順番に清掃する。昨年からの新型コロナウイルス感染拡大の下では、消毒や除菌シートによる拭き掃除を皆で相談してやっている」。

 「博物館の展示は?」と聞くと、「掃除をしながら見ています。浮世絵が好きなので、五大浮世絵師展はよかった」。「みんなの家での着付け体験は、わたしも娘も孫娘も三代にわたって体験することができた」と嬉しそう。

 最後に6月に市内の中学生が対象の「トライやるウイーク」の体験プログラムのひとつ、清掃プログラムについて聞きました。今時の中学生が、博物館での清掃体験をどう思っているか、知りたくて。塚田さんによると設備の太田さんと相談し、半数ずつにグループ分けして、清掃の手伝いをしてもらっている由。ある時、きれいに雑巾がけをする男の子を褒めると、「お母さんがいつも家でこうしているから」と答えたそうで、忘れられない思い出としてあるそうです。素晴らしい出会いです。

2 太田正治さんへのインタビュー

太田正治さん(左)

 昭和22年(1947)生まれで、平成18年会社に入社し、平成20年(2008)4月から博物館に勤務され、今年で13年と6ヶ月という経歴をまず伺いましたが、再就職の背景には、特別な事情がありました。もともと東芝に勤務されていたのですが、成人した息子さんを急病で亡くされて早期退職、しばらくは無職であった由。話を聞きながら、すでにその哀しみを乗り越えられているからこそ、赤の他人のわたしに話されるのだろうと胸が熱くなりました。

 もともと設備の仕事の経験はなく、資格ももっていないが、先輩に教えられて覚えたとの一言には、身体で仕事を覚えることの大切さが滲み出ています。

 「仕事の流れは?」という問いには、午前8時15分から5時15分の勤務で、8時20分にボイラーのプログラムを立ち上げ、灯油3000リットルの容量のボイラーが稼働するまで30分を要す。その後、館内設備の点検、トイレの照明、収蔵庫の温湿度管理、空調、エレベーターの順ですすめ、どこかに異常があれば10時までに交換・修理するという説明。

 「事故がありましたか?」の問いには、夜間に一度、漏電で警報がなったことがある程度とのこと。

 丹下健三基本設計のこの建物についても聞きました。「数年来、雨漏りが続いている。屋上に防水シートも掛けたが、外部から見えない雨水管から漏れている可能性があるので手が施せない。」という回答。雨漏りのたびに屋上に上り手当てをしてきた人ならではの発言です。こうした要因と経年劣化が今回の大規模改修工事へとつながりました。また「ロビーの冷暖房の加減が難しい」「地下に水槽があり、電気室や収蔵庫に近いのが、構造的な問題」との指摘もありました。

 博物館の展示で印象に残ったのは「軍師官兵衛展」。幸い奥様は、よく博物館に来て楽しんでおられる由。

 「当館での仕事を振り返っていかがでしたか?」という問いには、「いい仕事をさせてもらった」「学芸員も気さくな人が多い」と、これまた充実感が漂います。

 塚田さんと太田さんというベテラン二人が、職場である博物館を心底、愛し、充実して人生を送られてきたことが取材を通じて得られたのは望外の喜びでした。

 なお、塚田さんたちにはお別れにあたって、カードとともに餞別をいただきました。ありがとうございました。