丹波市市島町(たんばしいちじまちょう)の西の山上に神池寺(じんちじ)という大きなお寺があります。むかしむかし、このお寺で、子供のお坊さんがつぎつぎといなくなる不思議なできごとがありました。
いなくなった小僧(こぞう)さんたちは、みな夕べの鐘(かね)をつきに行って、そのまま帰ってこないのです。おかしいと思った和尚(おしょう)さんは、鐘つきに行く小僧さんの後を、大人のお坊さんに見はらせることにしました。

蛇のイメージ画像

数日の間、おかしなことは何もおこりませんでしたが、どんよりとした雲が空をおおったある日の夕方のことです。いつものように小僧さんが夕べの鐘をつくと、にわかにお堂の裏の林がざわざわと音をたて、中から大きな蛇(へび)が「にゅーっ。」と太い首を持ち上げてあらわれたのです。
大蛇(だいじゃ)は、そのままものすごいスピードで鐘をついている小僧さんを一のみにしてしまいました。見はっていたお坊さんは、あまりのできごとに声も出ず、腰がぬけてしまってしばらく動くこともできませんでした。

「これは大変なことじゃ。みなさん、よいお知恵はないかのぅ。」
この話を聞いた和尚さんは、すぐにお坊さんたちを集めて相談しました。
「大蛇は小僧を食べてしまうために姿をあらわします。ならば小僧とそっくりの人形を作って、その中に大変な毒を仕こんでおいてはいかがでしょう。」
一人のお坊さんの提案に和尚さんたちみんなも賛成して、さっそく人形作りに取りかかりました。

前に小僧さんがいなくなったのと同じどんよりとしたくもり空の日、お坊さんたちは毒を仕こんだ人形を鐘つき堂に運びました。そして、鐘をつく木に縄(なわ)をつけ、遠くはなれた大木のかげから、夕べの鐘をつきました。

「ゴォーン、ゴォーン。」
鐘の音がひびきわたります。すると、この間のようにまた裏の林がざわざわと音をたて、大蛇が首を持ち上げてあらわれたかと思うと、またたく間に人形を「バクリ。」と一のみにして、また山の中に姿を消していきました。
しかししばらくすると、また山の林がざわざわ暴れだし、空からはゴーゴーとものすごい音をたてて大風が吹いてきました。お坊さんたちが大木にしがみつきながら必死で様子を見つめていると、林の中で大蛇がもがき苦しみながら山の下の池へころがり落ちていく姿が見えました。

やがて風がおさまり、山ももとのように静かになりました。お坊さんたちがおそるおそる大蛇が落ちていった池に近づくと、もとは澄んでいた池の水が、大蛇の血で赤くにごってしまっていました。

大蛇はそのまま姿を消しました。小僧さんたちがいなくなることも、もうありませんでした。お坊さんたちはまた安心して修行に打ちこむことができるようになりました。でも、池の水は、いつまでたっても赤黒くにごったままで、もとの澄んだ水には戻りませんでした。いつのころからか、人々はこの池のことを「澄まずの池」と呼ぶようになりました。

(『郷土の民話』丹有編をもとに作成)