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庶民物
病草紙やまいのそうし

病草紙

病草紙
(やまいのそうし)
江戸時代 一巻 紙本墨画淡彩 巻子装
縦27.0㎝×横502.5㎝ 全14紙継 絵14段
外箱側面 題箋「病草紙/摸写粉本/133・80」
印記「□□□巻(白文方印)」(巻末)

 かつて後白河法皇が制作し、蓮華王院蔵に納めたとされる平安時代後期(12世紀)の原本を、江戸時代末期に模写したものです。京の住人の間で見られた様々な病状が描かれ、鼻黒の親子、小舌のある男などの14段から構成されています。

 かつて後白河法王が制作し、蓮華院宝蔵に納めたといわれる平安時代後期の「病草紙」(東京国立博物館ほか諸家分蔵)を原本とします。原本「病草紙」には、洛中に生きる貴族から各種職人たちのあいだで見られた、さまざまな病気や先天的な身体障害をもつ人々の姿が諧謔的に描かれています。この絵巻物は、江戸時代後期には大館高門家に所蔵され、少なくとも16図存在していたことが、高屋肖哲による模写「病草紙(病之草紙)」(東京国立博物館蔵)や「病草紙(廃疾図)」(京都大学蔵)などの写本から知られます。

 本作品はこの「病草紙」を江戸時代末期頃に模写した一巻で、絵14段から構成されます。
(1)鼻黒の親子
(2)小舌のある男
(3)陰虱をうつされた男
(4)背骨の曲がった法師
(5)屎を嘔吐する男
(6)風病の男
(7)尻の穴が複数ある男
(8)口臭のくさい女
(9)歯槽膿漏の男
(10)霍乱の女
(11)不眠の女
(12)眠り癖の男
(13)痣のある女
(14)眼病治療を受ける男

 先述の写本から知られる大館高門家に旧蔵された16図と比較すると、「二形(ふたなり)の男」「白子」の図が欠落しているほかは、すべて共通しています。また、その後、原本「病草紙」は15図を1巻として、昭和初期まで関戸家に旧蔵 されていました。関戸家旧蔵「病草紙」の大部分は、現在、京都国立博物館の所蔵となっていますが、本作品を比較してみると、「二形の男」が足りない反面、絵第1・4・5・11・12・13段の6図が余計に存在しています。戦後、関戸家本「病草紙」は各段ごとに切り離され、絵第4・5・13段の図は九州国立博物館、絵第11段はサントリー美術館、絵第12段は個人の所蔵品となりました。本作品はいまだ完全に分離される前の状態を描いており、絵巻物の分断過程を示す点で興味深い資料といえましょう。

 なお、本作品には詞書はなく、一紙ごとに絵一段が描かれています。絵第6・8・9段のみは白描のままで完成されていますが、彩色の指示などの書き入れはなく、色彩の有無がどのような理由によるかは不明です。

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