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武家物
御曹子島渡おんぞうししまわたり

御曹子島渡

御曹子島渡
(おんぞうししまわたり)
江戸時代 1冊 絵入写本 袋綴装 間似合紙
縦16.5㎝×横23.9㎝、全14丁、1面13行
挿絵全3図(片面3図)

 源義経の冒険を主題にした御伽草子で、室町時代に成立したとされます。奥州藤原氏のもとに身を寄せていた義経が、土佐のみなと(津軽の十三湊のことヵ/今の青森県)から千島喜見城の鬼のもとへと旅立ち、「大日の兵法」を手に入れる物語です。この資料は「奈良絵本」と呼ばれる絵入り写本で、江戸時代の元禄年間に制作されました。

 館蔵「御曹子島渡」は、本来は上下2冊セットの「御曹子島渡」のうちの、上巻のみにあたります。 物語の内容は、上洛の前に藤原秀衡のもとに身を寄せていた源義経が、土佐のみなと(原義は十三湊か)から千島列島へと渡り、横笛と弁舌を駆使しながら、喜見城に棲む鬼の秘宝「大日の兵法」を、鬼の娘・あさひ天女の助けによって収奪する物語です。若き義経を主人公にした冒険譚で、武家物の御伽草子に分類されます。現状からこの資料の本文系統を判断すると、渋川本『御伽草子』の「御曹子島渡」とおよそ近しい関係にあるとみられます。

 資料の装幀は、半紙本くらいの判型の紙を横長に袋綴装(ふくろとじそう)にしています。表紙および裏表紙は、藍色に染めた紺紙地に、竹垣に灌木のある庭を金泥で下絵に描いたものです。表紙中央には、題箋のはがれた跡が残ります。見返しおよび裏表紙裏は、麻葉繋文を地としてところどころに牡丹唐草文を主とした文様を型押した銀地を使用しています。料紙には間似合(まにあい)紙を用いており流麗な書体で本文が墨書され、その間には金銀を多用した極彩色による手描きの挿絵3枚(2丁表、4丁裏、6丁裏)が入っています。

 ただ挿絵は、制作当初には全5枚あったらしく、11丁裏、14丁表をほぼ一面ごと欠損しており、2枚の挿絵が切りはずされたとみられます。表紙と裏表紙には破れや虫食い穴が認められ、本文料紙には見開いたときに左右下隅を鼠にかじられたような損傷を受けています。また綴糸は原装のままですが、ほころびており後半頁がはずれています。こうした点には保存状況が惜しまれますが、小さいながらも豪華なつくりが魅力です。

 このような絵入り写本は「奈良絵本」と通称されるもので、室町時代後期から江戸時代前期にかけて制作されました。石川透氏の分類(石川透『奈良絵本・絵巻の展開』三弥井書店、2011年、「奈良絵本・絵巻の世界」『魅力の奈良絵本・絵巻』三弥井書店、2006年など)にもとづけば、館蔵の2冊は「奈良絵本」の終息期にあたる元禄年間(1688~1704)頃の作とみなせるようです。「嫁入り本」として、大名家や裕福な商家の嫁入り道具とされた、ともいわれています。

 故・喜田幾久夫氏による書画典籍の収集品(喜田文庫)で、当館の所蔵する2冊の「奈良絵本」のうちの1冊としても貴重な資料です。「御曹子島渡」の諸本としても、絵巻や丹緑本、奈良絵本など数点が知られますが、類例は多くないため稀少な作品と認められます。

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