学芸員コラム
2024年4月3日
第156回 特別展「首里城と琉球王国」(上)
3月16日(土)より特別展「首里城と琉球王国」が開幕しました。
本展は、50年を迎えた兵庫県と沖縄県の友愛提携を記念して行われる展覧会です。同時に、本展は当館の開館40周年を記念して行う展覧会でもあります。また、当館では開館40周年を迎えるに先立ち、施設設備改修工事をしていました。その関係から、工事後1年間については様子見のため、他機関でご所蔵の指定文化財の借用を控えておりましたが、本展から本格的に指定品をお借りして展覧会を開催することができました。
百浦添御普請絵図帳(国宝 琉球国王尚家関係資料のうち)
道光26年(1846) 那覇市歴史博物館蔵
展示は第1部:首里城と琉球王国の歴史、第2部:琉球王国の美術工芸、第3部:琉球の民俗、第4部:歴史文化の記録・復興・継承の4部構成です。私は第1部の歴史分野と第4部の首里城令和の復興を担当しています。第1部では、近世琉球を中心に、グスク時代(古琉球期)から琉球王国の終焉(「琉球処分(廃琉置県)」)までを取り上げています。
玉城グスク採集武具
グスク時代 沖縄県立博物館・美術館蔵重要文化財 首里城京の内跡出土 前立て飾り
14世紀後半~15世紀 沖縄県立埋蔵文化財センター蔵
なかでも、琉球王府に仕えた士と呼ばれる役人が作成を義務づけられた「家譜」は、その家の家系図と、各代の就いた役職や功績などが記されています。展示では、家譜と、家譜を継ぎ足すために作成された仕次(しつぎ)と呼ばれる資料のほか、家譜作成のために”こより”でまとめられた一紙ものの資料など、家譜作成に関わる資料をご覧いただけます。内容をじっくりご覧いただくと、様々な点に気づかされます。
表紙 冒頭
第二尚氏時代 19世紀 那覇市歴史博物館蔵
(重要文化財 伊江御殿家関係資料のうち)
第二尚氏時代 19世紀 那覇市歴史博物館蔵
たとえば、家譜に捺されたさまざまな種類の印。向姓家譜大宗の冒頭に捺された朱方印「首里之印」や、仕次の中央上部に捺された方印「系紀封印」は、系図が王府(系図座)のチェックを経た資料で、家譜が現在でいう公文書に近いものであることを示しています。
なお、出品している重要文化財「伊江御殿家関係資料」の向家は、琉球国王の分家(支流)にあたります。康煕30年(1692)に王家一門であることを明らかにするために、姓を「向(しょう)」とすることを命じられたことによります。琉球王府の役人(士の)名前も特徴があり興味深いのですが、今回は割愛します。
また、家譜作成のためには、記載の根拠となる資料が必要とされていました。
第二尚氏時代 19世紀 那覇市歴史博物館蔵
このように、家譜に記載される内容は王府機関による厳密な点検・修正がおこなわれたといわれています。しかし、最新の研究によれば、家譜作成の根拠となる書類が綴られた文書綴のなかには、家譜に記載されなかった資料もあるようです。家譜に記載される内容とそうでない内容の線引きはどこにあったのか、王府機関の系図座が、家譜をどういった観点でチェックしていたのかも含めて、考えてみたい疑問点の尽きない資料です。
(来月につづく)
※ 写真データは他機関様より借用しているものです。無断転載はご遠慮ください。