以前、学芸員コラムで紹介した齋藤畸庵(さいとうきあん)について、この場で取り挙げるのはこれで三度目ですが、今年度は二度、展示する機会に恵まれました。今回はその報告をさせていただきます。

 コレクションギャラリー展示「画手文心(がしゅぶんしん)―齋藤畸庵の詩と絵画―」(【会期終了】令和5年7月1日~8月13日)では、前年度に当館にご寄贈いただいた齋藤畸庵書画コレクション(関茂昭コレクション)をお披露目しました。

コレクションギャラリー展示「画手文心」のようす
畸庵の逸話をもとにした四コマ漫画「畸庵翁奇譚(きあんおうきたん)!」
(写真左)は、絵の得意な当館職員の作品です。

 さらに、この展示がきっかけとなり、兵庫県福祉部ユニバーサル推進課が開催する障害者芸術作品巡回展【今年度は会期終了】に畸庵も仲間入りすることとなりました。時期や程度は不明ながら、畸庵は耳が聞こえなかったためです。

 同展は第18回兵庫県障害者芸術・文化祭「美術工芸作品公募展」の入賞作品や、地域の障害福祉事業所等で制作された作品を、県内各地で紹介するものです。畸庵は巡回途中からの参加でしたが、畸庵のふるさと但馬にある芸術文化観光専門職大学をはじめ、最終的には加古川ウエルネスパーク、姫路家老屋敷跡公園「は」の屋敷、丹波の森公苑も加えた4会場の展示に加わらせていただきました。 会場の都合で実物を展示することはできませんでしたが、その代わり、大判プリンタで印刷したクロス生地に厚紙を巻いて束ねた軸、金具やひもを取り付けて、お手製の「掛軸風」バナーを作成しました。原寸大とはいきませんが大きな画面で、かつ展示ケース越しではなく触れられる距離感で作品(を印刷したもの)を見られるということで、じっくりとご覧くださるお客さまもいらっしゃいました。

芸術文化観光専門職大学図書館での展示のようす

 この巡回展に合わせて新しい切り口で畸庵を紹介することは、私自身にとっても、いつもとは違う視点で画家を見つめ直す機会となりました。畸庵の耳の障害が彼の画家としての活動にどのように作用したかというテーマは、今後時間をかけて取り組んでいきたいと思います。

  ところで、畸庵の耳のことを思うと、その描き出す世界はさぞ静かな趣をもつのだろうと思いきや、絵に添えられる詩には音が生き生きと詠われることがあります。笹の葉擦れに「雨が来たのか」と聞き違えたり、轟音をあげる滝の迫力に「岩壁が崩れたかのよう」と感嘆したり。畸庵の作品の魅力はたくさんありますが、このような漢詩もそのひとつです。

齋藤畸庵《滴瀝溪泉》(1870年)
当館蔵(関茂昭コレクション)
左上に記される漢詩では、ぽたぽたと滴る水音、重なり合う虫の声がうたわれます。

 畸庵の作品は、この夏開催する企画展「齋藤畸庵―城崎の画家が夢見たユートピア―」(令和6年7月13日(土)~9月1日(日))にて展示します。ご覧くださりましたら幸いです。