学芸員コラム
2023年12月15日
第154回 企画展準備中
来週12月23日(土)から、企画展「古銭・古札を楽しむ―館蔵・寄託のコレクションから―」を開催します。20年ほど前に菅野進氏よりご寄贈いただいた貨幣コレクションである菅野コレクションを中心としつつ、そのほか館蔵・寄託の県域に係る藩札類などもあわせて、日本と中国の貨幣をご紹介します。
今回はちょうど準備中なので、少しだけ舞台裏をご紹介しましょう。
12月の2週目までで、会場でお配りするガイドブックや、展示品の解説パネル類など、印刷物系の原稿と校正はほぼ目処が付きました。この原稿を書いているのは3週目で、会場設営と資料を展示する作業をしています。
写真は12月8日の展示室です。まだ展示品は何もありませんが、展示ケースは大体の位置に並びました。資料を置く展示台も、何をどこに置くかを考えながら壁付ケースに入れてあります。こうした作業は、当館では学芸員が手作業で行った上で、設備担当の方々に電気の配線をしていただいています。
また、内装業者さんに看板・ボード類を制作してもらっています。8日の段階では空き地でしたが、13日に写真撮影コーナーのボードが完成しました。
同時に、入口の看板も完成しました。
今回は、急いでいただいてパネル類もボード類と一緒に納品されました。早速展示位置に配って歩いているところです。
こうして会場の下ごしらえをしてから、実際に展示品を並べる展示作業に入ることになります。このコラムがアップされるころは、ちょうど展示作業中かなと思います。今回は少し事情があって、すべての段取りが少し早めに回っています。
さて、本展で展示する古銭は、小判は長辺で6~7cmほどありますが、一分判金や豆板銀などは1.5cm程度とぐっと小さくなります。また、銅銭類は1文銭ですとおおむね直径2.3cmぐらいと、小さな資料がほとんどです。
ですので、少し目を凝らしていただく必要がありますが、じっくりとご覧いただくと、中には同じ名前の古銭同士で微妙な違いがあることにも気づかれるかと思います。
たとえば、日本古代のお金である和同開珎(わどうかいちん、「わどうかいほう」と読む説もあり)をとりあげてみましょう。
和同開珎は、平城京遷都の少し前、和銅元年(708)に律令国家が発行した銭です。銅銭と銀銭を展示しますが、それぞれの銭に鋳出された文字(銭銘や銭文と呼びます)のうち、「開」の部分をよくご覧になってください。
やや見にくいですが、銀銭の方は「開」の門構えが通常のものです。これに対して銅銭の方は「門」の中央上部が両側とも「コ」、もしくは逆「コ」の字状に開いています。これは中国の隷書風の書体なので、古銭界では「隷開(れいかい)」と呼ばれてきました。これに対して通常の門構えは「不隷開(ふれいかい)」と呼ばれています。
この書体の違いは、単なる見た目の違いではなく、鋳造された時期の違いを示すとみられています。微妙な違いに意味がある一例です。
さて、今回は企画展準備の舞台裏とともに、展示の見所について最初のさわりだけご紹介しました。あいにくの極寒の時期ですが、是非ご来館いただき、まずはお金の歴史の大きな流れをご覧いただければと思います。また合わせて、展示資料の細部をじっくり観察する楽しみも味わっていただければ幸いです。