改修工事に伴う休館期間のあいだ、当館では「“ひょうご五国”歴史文化キャラバン」と題して、県内各地で当館の所蔵資料を紹介する巡回展を実施しています。第一回目は尼崎市立歴史博物館(2022年1月8日~2月6日)、第二回目は三木市立みき歴史資料館(2月19日~3月21日)を会場としてお借りし、地元の方を中心に、多くの皆さまにご観覧いただきました。

 この「キャラバン」は現在、豊岡市立歴史博物館にて開催中です(6月14日まで)。今回の学芸員コラムでは、この豊岡会場の雰囲気を少しだけお届けします。

豊岡市立歴史博物館 但馬国府・国分寺館

 “ひょうご五国”と銘打っているように、この巡回展では、旧五国(摂津、播磨、但馬、丹波、淡路)からなる兵庫県の多様な歴史文化を示す資料を紹介しています。各地域を代表する仏像、やきもの、民俗資料を見比べてみるのも、この展覧会の楽しみ方の一つでしょう。

五国の仏像(※すべて複製)
中央が文常寺(豊岡市)の聖観音立像。
淡路人形(九尾の狐)
展示会場のようす

 すべての会場に共通の資料もありますが、会場ごとに地域の特色を取り入れた展示となっている点も見どころです。豊岡会場でも、豊岡市立歴史博物館の皆さまにご協力いただき、本会場ならではの展示となりました。また私自身も但馬の歴史文化について多くのことを教えていただきました。特に印象に残った2つの出来事についてお話しします。

 まず但馬ゆかりの資料として、以前このコラムで紹介した「城崎真景図巻」と同じ趣向で円山川沿いの景色を描いた「但州小驪山勝景図巻」を展示しました。この絵巻の冒頭に描かれる興国寺は、豊岡藩主・京極氏の寺として栄えましたが、現在は存在しません。

《但州小驪山勝景図巻》冒頭に描かれる興国寺

 展示しているのは城崎温泉周辺の景色を描いた後半部分ですが、冒頭に興国寺が描かれていることをお伝えしたところ、豊岡市立歴史博物館の方から、元禄期の豊岡城下を描いた絵地図(豊岡市立歴史博物館所蔵)に興国寺が描かれていることを教えていただきました。図巻では興国寺とその周辺のランドマークとの位置関係がわかりにくいのですが、絵地図を見ると、豊岡陣屋(政庁)や侍屋敷、町屋の南西に、今はなき興国寺が建っていたことがわかります。現在の豊岡市街の地図と対応させたわかりやすい図版も提供いただき、図巻に描かれた世界をより身近に感じる機会となりました。

 興国寺についてはパネルにて展示していますので、ご覧いただけましたら幸いです。

興国寺についてのパネル展示のようす

 さらに今回の巡回展に関連する資料として、豊岡市立歴史博物館のご所蔵品のうち「久斗(くと)文楽」で使われていた人形の頭(かしら)も展示していただきました。豊岡市日高町久斗区で江戸時代後期に始まった久斗文楽は、昭和30年代まで存続し、但馬各地で公演が催されるほどの人気を誇ったそうです。使われていた人形のうち、作者がわかるものは全て淡路・阿波(徳島県)ゆかりの人形師によるもので、会場には、洲本市由良町生まれの人形師・由良亀の人形を展示いただいています。当館からは淡路人形浄瑠璃で使用されていた淡路人形を出品していますので、淡路ゆかりの人形同士が、ふるさとを遠く離れた豊岡の地で思いがけず邂逅を果たしたかたちになりました。

久斗文楽の頭(手前・豊岡市立歴史博物館蔵)と淡路人形(奥・当館蔵)

 「キャラバン」はこのあと、洲本市立淡路文化史料館(7月16日~8月21日)、赤穂市立歴史博物館(9月10日~10月8日)、丹波市立柏原歴史民俗資料館(11月12日~12月18日)、兵庫県立兵庫津ミュージアム(2023年2月4日~~3月5日)にも巡回します。「兵庫県立歴史博物館って何が見られるの?」「兵庫県立歴史博物館は遠いからなかなか行けない…」という方は、この機会にぜひ、お近くの会場にお越しください。

※展示資料は会場ごとに異なりますので、ご注意ください。

“ひょうご五国”歴史文化キャラバンの詳細はこちら(https://rekihaku.pref.hyogo.lg.jp/exhibition/10052/)