学芸員とは?
「学芸員」とは、博物館・美術館・資料館・文学館・科学館・動物園・水族館・植物園・天文館などの専門職員のことです。一口に「学芸員」と言っても、このように文系・理系の双方にまたがるとても広い幅があります。言うまでもなく、こうした広大な知の領域を一つの館や一人の人間がカバーすることは現実的におよそ不可能です。したがって、館にはそれぞれの守備範囲とするテーマがおおまかに決められており、また一人一人の学芸員はそれぞれの専門分野に応じた仕事をすることになります。
「博物館」には、歴史から自然まで総合的に取り扱い、文理双方の学芸員が所属する「総合博物館」と、文系の学芸員が中心となる「歴史系博物館」などがあります。また、美術館・資料館・文学館などは文系の学芸員が多く、科学館・動物園・水族館・植物園・天文館などは理系の学芸員が中心となる職場です。同じ「学芸員」という肩書きでも、勤めている館の性格によって仕事の内容は大きく異なっているのです。
たとえば当館の場合は、博物館の中でも「歴史」をテーマにする館です。こうした「歴史系博物館」では、美術・歴史・考古・民俗といった専門分野の学芸員が配置されるのが一般的です。また、博物館資料の保存・修理を専門とする保存科学の専門学芸員がいる館もありますし、近年では博物館学や博物館教育担当の学芸員を配置する館も増えてきています。以下では、当館のような「歴史系博物館」を対象として、そこで勤める学芸員について少し説明してみましょう。
まず、一人一人の学芸員の本来的な専攻分野を見ていきましょう。「美術」や「歴史」など様々な分野がありますが、さらにそれぞれの専門分野の中で細かく専攻が分かれています。たとえば美術の場合は、彫刻・絵画・工芸というジャンルで分かれるとともに、それぞれのジャンルの中で古い時代、新しい時代と分かれていきます。また、歴史の場合は、古代(平安時代以前)、中世(平安後期~安土桃山)、近世(安土桃山~江戸)、近現代(明治以降)と分かれ、さらにそれぞれの時代の中で政治史、社会経済史、文化史などと得意とするジャンルが分かれていきます。考古の場合も、やはり本来は旧石器、縄文、弥生、古墳、中世考古などと時代ごとに専攻が分かれています。
このように一口に「美術」や「歴史」といっても、それぞれの学問自体の拡がりは大変に幅広いのです。そして、それぞれの学問ごとに日々たゆみない努力によって発展してきており、長い研究の歴史の中で成果が分厚く積み重ねられてきています。ですから、今日の社会では一つ一つの学問分野の中に限って見ても、一人の人間が学問上の専門家として取り組める範囲はそう広くはならないのです。
ただし、博物館の仕事として見ると、こうした一人一人の学芸員の本来的な専攻分野だけにこだわっていては仕事にならない場合がほとんどと言ってよいでしょう。この点は館の大きさによっても大きく影響されます。配置されている職員数、学芸員数によって一人の学芸員が担当する範囲がかなり変わってくるためです。数多くの学芸員を擁する館では、一人一人の担当範囲をある程度絞り込むことができますが、少ない人数で切り盛りする館の場合は、一人の学芸員がカバーする範囲はかなり広くなっていきます。たとえば一人しか配置がない公立館であれば、基本的にその館が守備範囲とするテーマや地域の中の全分野を一人で担当することになります。こうした館も少なくありませんし、数人でおおまかに歴史・考古・民俗と担当分けをし、その分野については一人が全てを担当している館はたくさんあります。
現在全国各地にある博物館を通して見ても、10人以上の学芸員を擁する館は全体の中ではさほど多くはありません。当館も学芸員数は9人です(再任用を除く)。学芸員個人の本来の専攻と、博物館の仕事としての担当範囲とが、ぴったりと一致するケースはかなりの少数派です。多くの場合、学芸員は個々人の本来の専攻の範囲を越えて、博物館で担当する分野の仕事に取り組んでいるのです。
当館の場合、美術・歴史・考古・民俗に加えて、姫路城の裏手にあるという立地を踏まえて、城郭分野を専門とする学芸員も配置しています。美術は彫刻、中世絵画、近世絵画、工芸の各ジャンル1人ずつで、そのほか歴史・考古・民俗・城郭・文化史が1人ずつ所属しています。また、館長は日本史と文化遺産学が専門です。当館所属学芸員については、「スタッフ紹介」や「学芸員コラム」、館長については「館長ブログ」もご覧ください。
学芸員としての専門能力を身につけるには?
学芸員になるためには、まずはここまで述べてきたような、それぞれの専門分野についての深い知識や研究の方法を身につけることが必要です。実際に自分の専攻範囲を超えて幅広く仕事を進めていく上でも、その核となる自分の専門分野を持つことが出発点になります。
こうした専門分野に対する能力は、大学や大学院等で学んで身につけることになりますが、当館のような「歴史系博物館」の場合は、対応する専門分野は大学の「文学部」にある場合が一般的と言えます。
「文学部」の中にも様々な学問分野の専修コースがありますが、美術の場合は美術史学、考古の場合は考古学、民俗の場合は民俗学や文化人類学を専修する場合が一般的です。また、歴史の場合は、史学コースのなかに大きく日本史学・東洋史学・西洋史学の三分野がありますが、現在国内の歴史系博物館で実際に仕事をしている歴史の学芸員は、日本史を専修した方がほとんどと言ってよいでしょう。
ただし、ここであげた専修はあくまでも一般的なケースにすぎません。美術史や日本史などそれぞれの学問分野は、文学部以外の学部でも学べる場合があります。その大学や学部に、それぞれの専門分野の教員がいれば可能性はあるのです。
たとえば教育学部にも社会科教育・美術教育などの専修コースがあり、こうした教育系の専攻でもそれぞれの専門分野について学ぶことができます。また、美術については芸術系の大学出身の方々も多く見られます。芸術系大学にも美術史学の専修コースがある場合もあり、また制作系を専攻された方が美術や保存科学・博物館教育などの分野で活躍されているケースもあります。また歴史については、経済学部や法学部にも、それぞれ経済史、法制史等の講座を持つ大学もあります。
なお、城郭については、こうした専門分野を配置している館は全国的にも当館以外にはほとんどありませんので一般的なケースは提示できません。ただし、大学などで城郭について学べる可能性があるコースとしては、日本史学か考古学、あるいはこれは理系になりますが、多くの場合工学部に置かれている建築学コースなどがあります。
さらに、近年は大学改革でさまざまな学部名が登場しています。たとえば、「○○文化学部」や「文化財学部」といった名称の学部も見られるようになりましたが、こうした学部の中にも、歴史系博物館と対応する専門分野が学べるコースを持つものが多く見られます。それぞれの専門分野を学ぶ入り口としては、多様なコースが存在しているのです。詳しくは、それぞれの大学のホームページ等でお調べください。
学芸員資格について
さて、「学芸員」として仕事をするためには、ここまで述べてきた専門分野での能力とともに、同時に「学芸員資格」という国家資格も必要となります。
学芸員資格は、大学等で必要な単位を修得するか、文部科学省の資格認定試験に合格すれば取得できます。ただし、これは学芸員として採用されるために必要な単位や資格を修得するだけで、教員資格のように免許状が発行されるわけではありません。また、資格を持った人が実際に学芸員となるのは、それぞれ採用された博物館などで学芸員として任用されてからになります。資格があるからと言って、勝手に「学芸員」を名乗ることはできない、ということになります。
学芸員資格の取り方については、「博物館法」という法律ではつぎのように定められています。
- 学士の学位を有し、大学で文部科学省令の定める博物館に関する科目の単位を修得したもの。
- 大学に2年以上在学し、博物館に関する科目の単位を含めて62単位以上を修得したもので、3年以上学芸員補の職にあったもの。
- 文部科学大臣が、文部科学省令で定めるところにより、上の2つにあげたものと同等以上の学力及び経験を有すると認めたもの。
③は、具体的には文部科学省の資格認定試験に合格することや、各専門分野を極めた方が書類審査で認定されるケースを指しています。
現実的に、もっとも多くの方が資格を取得しているのは①の方法です。大学で必要な単位を修得して卒業すれば、資格が与えられることになります。この方法で取得される方は年間1万人以上とも言われています。②の方法は、博物館等で勤めながら資格をとる方法です。また③の方法で取得される方は、文部科学省のホームページによれば、200人弱の方々に止まります。
なお、全ての大学が学芸員資格の取得に必要な講座を設けているわけではありませんのでご注意ください。所属する大学に必要な講座がない場合は、学芸員資格に必要な分を、他大学で修得する必要が生じます。また、大学によっては、通信制で学芸員資格を取得できる課程を設けているところもあります。学芸員の資格だけがほしい、という方を対象とした課程です。詳しくは、それぞれの大学にお問い合わせください。
ところで、大学での授業科目ですが、平成21(2009)年4月に関係法令が一部改正され、平成24(2012)年4月1日から、博物館に関する科目が変更になります。詳しくは、文部科学省ホームページ内の、「博物館に関する科目について」を参照してください。
このほか、学芸員資格全般については、文部科学省ホームページ内の「学芸員について」もご覧ください。
このように学芸員資格の取得の方法は大学等で整備されてきていますが、実際に学芸員になるための博物館・美術館での採用数については、全国的に見てもかなり少ないというのが実状です。毎年数多くの方々が資格を取得されますが、その中で実際に博物館・美術館などに採用される方はごく一握りと言ってよいでしょう。なってみたいという希望を持つ方の数と、それぞれの館が採用できる人数とが圧倒的にバランスを欠いているためです。この状況は当分改善される見込みはありませんので、まだまだ依然として狭き門であることが続くと考えられます。
なお、全国の博物館、美術館などの中には、一部に学芸員資格がなくても専門職員として活動できる館もあります。たとえば、東京国立博物館をはじめとする国立博物館や、一部の県立博物館などがあります。こうした館では、専門職員は「学芸員」ではなく、「研究員」などの肩書きで任用されています。
とはいえ、これらの館でも「研究員」などとして活動されている方々は、専門分野や博物館に関する知識については、一般の「学芸員」と同等か、多くの場合それ以上の能力を持っています。ですので、博物館などの専門職員として活動するためには、やはりまずは専門能力を高めることが基礎になります。また、学芸員資格を必要としない館は少数派です。博物館などでの専門職員としての活躍を希望される方は、学芸員資格をお取りになることが、選択の幅を広げる上でも望ましいと言えます。
当館の博物館実習について
当館では、例年8月頃に、大学等での資格取得に必要な単位の一つとなる「博物館実習」を行っています。対象は大学及び大学院に在籍されていて、学芸員資格取得を目指している方です。
なお、申し込みは各大学を通してのものに限らせていただいており、学生個人からの申し込みはお断りしていますのでご了承ください。申し込み期間や要項はその年ごとの状況に応じて少しずつ変わっています。詳しくは下記の当館事業企画課までお問い合わせください。
お問い合わせ先
〒670-0012 姫路市本町68番地
兵庫県立歴史博物館 事業企画課
TEL:079-228-9011
FAX:079-288-9013