新緑の5月、「こどもの日」が来ると、姫路市大市(おおいち)にある県立こどもの館(やかた)を思い出します。そのシンボルは、新緑に囲まれて立つ安藤忠雄氏設計の建物と、風を受けて自在に廻る造形作家新宮晋さんの作品ですが、わたしの印象は、毎年、冬に県立こどもの館が実施する「手づくり絵本コンクール」です(毎日新聞の共催)。今年のコンクールは、二つの意味で、とても印象に残るコンクールとなりました。

 一つ目の印象は、こどもたちを取り巻く状況への関心からです。ご承知でしょうが、昨年度、各地の小学校にタブレットが配布され、教科書とノートではなくタブレットでの授業が始まるというニュース。教科書もいずれタブレットに置き換わることになると聞きますが、まったく新しい教室風景の誕生です。

 同時に、1990年代後半から2000年以降に生まれた若者たちは、世界的にZ世代と呼ばれているのだと知りました。Zなのでそれ以前にX・Y世代がいたのでしょうが、聞いた記憶がありません。しかしこのZ世代、強く印象に残る理由があるのです。スウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんの存在です。地球温暖化に立ち向かおうと「気候のための学校ストライキ」を単身、起こしたことで有名になりましたが、彼女は2003年生まれです。

 Z世代には、もうひとつデジタル・ネイティブという別称が与えられています。生まれながら、デジタルに親しむ世代という意味です。生まれた瞬間から、情報をアナログではなく、デジタルで送受信することで成長する人たちがZ世代でもあるのです。団塊の世代で、アナログ・ネイティブであったわたしには、想像を絶するのですが、そんななか超アナログで育つZ世代がいることを、「手づくり絵本」コンクールが教えてくれます。

 とくに令和2年度のコンクールでは横山佐和子館長の発案で、知事賞・毎日新聞社賞と並んであらたに歴史博物館館長賞が設けられました。審査員に志願して7年目、横山館長から頂いたご褒美です。

兵庫県立歴史博物館館長賞の盾

 絵本作家ら専門家と一緒に477点を審査したのですが、最初の歴史博物館館長賞を受賞されたのはつぎの方々でした。

   18歳未満の部 澤村奈都乃(県立宝塚西高校1年)  『いしくんのおはなし』

   18歳以上の部 ボランティアいずみ(川西市)   『コロナにまけない!』

 表彰式が3月、歴史博物館で行われ、席上、選考理由を述べました。

 歴史博物館館長賞には、二つの大事にしたい要素があります。第一に歴史的な視点。第二に兵庫県的な視点。『いしくんのおはなし』は手に取った瞬間、竜山(たつやま)石を想起させました。高砂市の生石(おうしこ)神社の「石の宝殿」は、国の史跡として知られています。一方、『コロナにまけない!』は、歴史としての現在を象徴するテーマですが、フェルトの作品に点字が付けられているという配慮に魅せられました。読み手への思いが伝わる作品です。

 澤村奈津乃さん(県立宝塚西高校1年)の作品 『いしくんのおはなし』
ボランティアいずみさん(川西市)の作品 『コロナにまけない!』
左上に点字が付けられています。

 その後、『じゃんぷ!』で知事賞を受賞した浦河日向(ひなた)くん(14歳)と話す機会がありました。版画摺のこの作品、「一枚一枚の絵に想いを込めて仕上げた」そうです。デジタル・ネイティブにアナログの醍醐味を経験させるこのコンクール、ずっと続くことを願います。