足掛け11年勤めた歴博館長退任の日が近付いてきました。家を出る朝、「あと何回」と、心の中で呟いています。わたしの77年の人生の中で、とても大きな11年であったとの思いは、いずれ人生の最終盤で膨らむことでしょう。

 そんな運命的な出会いをした博物館にわたしは、いつ、どこで、何をきっかけに出会ってきたのでしょうか。具体的な場の記憶はないのですが、一つ、強く印象に残っている瞬間があります。それは、平成5年(1993)2月7日夜に大阪で開催された「歴史学と博物館を考える会」の総会です。そこで記念講演をしたわたしは冒頭、「わたしは博物館が好きです」と語っているのです。当日のレジュメにも記されています。

 現に学芸員として在籍している、あるいは将来、その道に進もうと思っている若者に対し、そう広言しているのです。当時44歳の壮年ですが、それまでの人生を通じて体験した各地の博物館・美術館の存在が、その前提としてあります。

 兵庫県立歴史博物館に出会い、無事、館長職を終わろうとしている今、根っこには「博物館が好き」という一途な思いがあったように思います。

 そこで博物館・美術館を好きになるにはどうしたらいい、という問いが生まれます。多分、なんとなく好きになるのでしょうが、2月15日に当館で開かれたミュージアムフェアを見て、このお祭りは絶対に「博物館好き」を生む場だと確信しました。

 ミュージアムフェアは、館長として赴任する以前に兵庫県博物館協会(兵博協)の行事としてスタートしており、着任後、神戸や姫路で開催された機会に参加して、その熱量の高さに驚いていました。それがコロナ禍もあり、会場も定まらないという迷走期を経て、今年から当館で開催するイベントとして再出発したのです。事業企画課を中心に検討を重ねた結果の英断です。

 幸いにして兵博協加盟の20館の参加があり、1階ロビーや2階の踊り場、地下の講堂などに、夏祭りの屋台が並ぶように館ごとのスペースと机が所狭しと配置され、10時のオープニングセレモニーを待ちました。

 2月にしては温かな気候のお陰もあり、開会を前に博物館前には人が集まりだしています。ゆるキャラも交えたオープニングセレモニーでは、わたしの開会あいさつののち、鈴木館長補佐兼事業企画課長の掛け声とともに「オー」と一斉に声が上がりました。

開会式のようす

 各種博物館のブースには、それぞれ趣向を凝らしたワークショップが用意されていましたが、閉会前には用意した資料を配り終えたところがほとんどであったと聞きます。

会場のようす

 目につくのは幼児や小学生の参加。この催しを続けていけば、彼らにとって博物館とは、「お祭り広場」だと受け取られることとなるでしょう。成長して、「君の博物館の思い出は?」と聞かれたとき、「歴博のミュージアムフェアです」と答えてくれる小中学生が生まれることをひそかに期待しています。

 11年にわたる館長在任中、毎月どうにか、ブログを続けてきました。わたしの小文に写真を張り付け、館内の決裁を取った上での公開となるのですが、この間、担当してくれた学芸員諸君にお礼を申し上げます。そしてなにより、ご愛読いただいた皆さまに心から御礼申し上げます。ありがとうございました。